かつて聴いた時は地味で物足りないと感じた曲を、
15年ぶりにたまたま聴いたら不思議と良い曲に感じられた。
この音楽の好みの変化は、何故起きるのか、どういう変化なのかが気になって調べてみた。
大きく分けて4つの変化が起こっていたので、簡単にまとめてみる。
1.ドーパミン受容体の密度減少
快感信号を処理するドーパミン受容体は、10年で密度が数%減少していく。
若い頃は密度が高いため、アップテンポ、大音量、派手なサビという強い刺激に対してよく反応する。
加齢に伴い密度が減少すると、強い刺激ではなく、細かな音の重なり、静かな展開に対して脳が反応する余地が出てくる。
反応する刺激の種類が変わるという事である。
2.処理領域の移行
音楽を処理する脳の領域自体も年齢で変化する。
若い頃は感情や直感を司る皮質下・線条体などがメインで働くため、聴いた瞬間の盛り上がりや刺激に反応する。
加齢により思考や構造理解を司る前頭葉が成熟するため、音楽の深い部分を理解しようとし、構成や前後の文脈を意識するようになる。
思考処理が直感から分析に変わるという事である。
3.脳内データベースの増加
人は音楽を聴く時、次にどんな音が来るかを無意識に予測しながら聴いている。
若い頃は知っている音楽パターンが少ないため、複雑な曲や静かな曲は予測がしづらく、とらえにくい曲と感じる。
加齢とともにパターンが蓄積され、とらえづらかった曲も予測できるようになり、脳が曲を認識しやすくなる。
データが増えた事で新鮮な驚きは減るが、理解できる範囲は広がる。
4.記憶ネットワークとの合致度
音楽の処理は、経験や感情の記憶であるエピソード記憶を司る領域と強く連携している。
加齢という時間経過で経験や感情の記憶が積み重なることで、音楽からの刺激と結びつきやすくなる。
新鮮さは失われるが思い出や共感といった自己との結びつきの反応に変わっていく。
おわりに
調べてみて一番面白いと感じたのは、単に脳が衰えただけではなく、年齢と共に感性が磨かれただけでもない、様々な変化の集合であったこと。
激しい音楽にストレートに反応することはできなくなったかもしれないが、通り過ぎてしまっていた音楽の良さに改めて気付ける今の脳の状態もこれはこれで良いものだなと思える。
皆さんも昔のプレイリストや作品を引っ張り出してみてはいかがだろうか。
主な参考文献
【学術論文】
- Volkow, N. D., et al. (1996)
"Parallel decline in striatal dopamine D2 receptors and dopamine transporters with age in healthy human subjects." American Journal of Psychiatry, 153(1), 31-35.
(概要:加齢に伴う線条体ドーパミン受容体の減少に関する研究) - Gogtay, N., et al. (2004)
"Dynamic mapping of human cortical development during childhood through early adulthood." Proceedings of the National Academy of Sciences, 101(21), 8174-8179.
(概要:前頭前野をはじめとする脳皮質の成人期にかけての発達・成熟プロセスに関する研究) - Salimpoor, V. N., et al. (2011)
"Anatomically distinct dopamine release during anticipation and experience of peak emotion to music." Nature Neuroscience, 14(2), 257-262.
(概要:音楽を聴いた際の脳内ドーパミン放出および報酬系の動きに関する研究) - Salimpoor, V. N., et al. (2013)
"Interactions between the nucleus accumbens and auditory cortices predict music reward value." Science, 340(6129), 216-219.
(概要:音楽の価値評価と聴覚皮質・前頭前野の機能結合に関する研究)
【専門書】
- Huron, D. (2006)
Sweet Anticipation: Music and the Psychology of Expectation. MIT Press.
(概要:音楽における脳の予測と期待値、認知パターンの形成に関する理論)